私と賃貸住宅(随筆)

世の中で最も無駄な出費は、7万円を超える賃貸住宅への家賃支出である。ふつう、住居費は収入の三分の一未満ということが「財政健全」の印だと言うことが決まっておる。ということは、7万円の家賃の場合は税引き後の手取りで21万円の月収が必要(実質三十万円弱)で、これが10万円/月となると40万円の手取り月収は無いと厳しいということになる。

その昔、私の周辺で「見栄」の為だけに都内の有名エリア=具体的には渋谷区に住むこと固執している奴がいた。月収が不安定で手取り20万円あるか無いかなのに、家賃11万円の賃貸マンションに住んでいた。私はまったくの親切心で、埼玉か千葉に引っ越せばもっと安く済むはずである、といったがこの吾人は「このエリアに住むことが文化的ステータスである」といって頑なに譲らなかった。案の定、西日本の郡部出身の「お上りさん」で、東京というブランドに寄生してしか生きていくことができない「意識高い系」の連中のひとりであった。

毎月毎月、十数年前に減価償却の終わったほとんど無価値の不動産に10万もの家賃を払い続けている彼は、典型的な「田舎者」で、自分が渋谷区に居を構えていると言うだけで、何かいっぱしのクリエイターになった気分でいたようである。いや、真の創作的実力が無いからこそ、彼は渋谷区という住所に殊更拘泥し、その住所を死守するために馬車馬のように安い仕事を請け負いまくって、それを片っ端から住宅費につぎ込んでその小さな自尊心を満たす代わりに経済的には疲弊していったとも言える。彼にとって「渋谷区に住んでいる自分」というのは、わかりやすいほど鮮明な田舎出身者特有の典型的東京コンプレックスを埋める代替であった。

やむにやまれぬ事情がある限りを除いて、現代青年は賃貸住宅費を7万円未満に抑えるのが望ましい。というより、現実的な収入の統計を観ても、7万円を超える家賃の支出は家計を圧迫し、生活の潤いを削ぐからである。ちなみに私は、過去35年の人生の中で、55,000円の家賃が最も高い部類で、それ以上の物件に住んだことが無い(付属駐車場代は除く)。そも、6万円を超える賃貸住宅に住むメリットを感じないからだ。

はじめて独り暮らしを始めたとき、京都市の嵯峨嵐山で借りたワンルーム7.5畳の物件は38,000円であった。そのうち京都の住宅事情が滲み込むように判明するに従って、この地域でこれでも高いのでは、と思い、すぐさま該物件を解約して同市内北区の(イノシシが出るような)辺境に34,000円のワンルーム6畳(+4.5畳のキッチン、ユニットバス)を見つけ、そこに引っ越した。私はここに実質4年の永きに亘って住んだ。

敷地内の付属駐車場が8,000円だったので、早速中古自家用車を購入した。駐車場込みで42,000円の家賃だった。全然悪くは無い。同級生でもブルジョワの子弟は、交通至便な四条河原町辺りにコンクリート打ちっぱなしのロフト付きワンルームに8万円~9万円などを払っていたが全く無意味だと思った。7万円を超える賃貸住宅費ほど無駄で無意味なものはない。そして苦心して7万円以上の家賃を捻出しなければ務められないような経済環境なら、自分の経済生活が身の丈に合っていないわけだから、早急に転職か帰省をオススメする。